ohaka to ojizousan


私は引越しが好きである。
いい場所を見つけるとすぐ住み替えてしまう癖がある為、町をぶらついては新たな物件を求めてふらりと不動産屋に入ってしまう位だ。
一人暮らし暦も8年を迎え、北海道・新潟・長野・・・と転々としてきたある日、私は長野の駅前の小さな不動産屋である物件との出会いをした。
あれは確か2009年の初夏だったように思う。
駅前をぶらついていたところ一軒の不動産屋を見つけた私はついいつもの癖が出てしまい、「涼みついでにちょっと入ってみるか。いい物件を見つけたらラッキーだし・・・」と軽い気持ちで扉を開けた。
いわゆる大手では無かった為余り期待はしていなかったのだが、こういった店こそ地元のマイナーな優良物件を扱ったりしているのである。
「今回はどういった物件をお探しですか」とにっこりするお姉さんに、頭では無理だろうな理解しつつも「駅から徒歩五分圏内、家賃五万以内、オートロック・・・なんてないですよね」と聞いてみた。
猫を飼いたかったので本当はペット可の物件が良かったが、さすがにそこまでは口に出せない。
するとお姉さんは「少しお待ちくださいね」と席を立った。
そしてしばらくして「こちらなんていかがでしょうか」と一枚のプリントを持ってきてくれた。
そこには家賃2万8千円・オートロック・女性専用マンション・ペット可の文字が。
びっくりしすぎて思わず変な声が出てしまった。
そこはやはりいわゆる訳あり物件らしく、住み続けてくれる人がいないので激安に設定しているのだそうだ。
訳ありな部屋とその両隣の部屋は毎回半年も持たずにすぐ出て行ってしまうらしい。
そんな物件に出会ったことのない私は興味が湧き、実際に見に行かせて貰うことになった。
鍵を開けながら「乗り気だった人も部屋に入った途端やっぱり辞めたいっておっしゃるんですよね」と苦笑するお姉さん。
しかし実際に部屋に入ってみるとその綺麗さにびっくりした。
フローリング・IHヒーター・エアコン・大きな収納・室内洗濯機置き場・浴室乾燥機能・・・挙げればきりがない程までに好条件なのである。
「こ、ここに決めますっ」とその場で即決した私に、逆にお姉さんが「いいんですか、本当にいいんですか」とびっくりしていた。
勢いで契約してしまったが、引越しまでの期間は少し不安だったのは事実だ。
ネットで訳あり物件の体験談などを調べて怖くなったりもしたが、いざ住んでみると特に何も不都合が無い。
びっくりする位に何も無い。
しかし、空き部屋だった両隣は私が入居して一~二ヵ月後には両方埋まり、そして両方とも数ヶ月以内に出て行ったので、もしかすると本当は何かあるのかもしれない。
けれども当の私の部屋はやはり何も無い。
私はその後訳あり物件で実に三年もの間快適に過ごしたのだった。